HRテクノロジーを活用するために求められる日本企業の取組みとは – ウイングアーク1st民岡良さん × セレブレイン 関 伸恭【後編】

セレブレインのコンサルタントとゲストが、ワインと料理を楽しみながら人事について本音で語り合う対談企画。第12回ゲストは、ウイングアーク1st株式会社 営業・カスタマーサクセス本部 人事ソリューション・エヴァンジェリストの民岡良さん。HRテクノロジーの最先端のトレンドや活用をすすめる上で求められる企業の取組みについて伺います。聞き手はセレブレイン パートナーHR Techコンサルティング事業担当・関 伸恭が務めます。

第12回ゲスト:民岡 良さん略歴
ウイングアーク1st株式会社 人事ソリューション・エヴァンジェリスト。日本オラクル、SAPジャパン、日本IBMを経て2018年10月より現職。HRテクノロジー・コンソーシアムの理事、および日本CHRO協会のアドバイザーも務める。著書に『HRテクノロジーで人事が変わる』(2018年 労務行政、共著)がある。

広範囲な仕事を請け負うジェネラリストにこそジョブ定義が必要

関:SAPジャパンを離れた後は、日本IBMに入社されましたよね。

民岡:2016年でしたね。日本IBMに入社したことは自分のキャリアとしても大きな意味がありました。日本IBMはどの世代にも知名度が高く、信頼されています。私もIBMの冠があったおかげで、多くのキャリアを積むことができました。

関:2016年というと、ちょうどWatsonなどが発売され、AIに関する取組みが盛り上がりはじめてきた頃ですね。

民岡:そうですね。ただ、強調しておきたいことがあります。確かに日本IBMではAIを活用した変革をいち早く推進してはいましたが、AIなどのテクノロジーの導入を単に行うだけではなく、その下支えもしっかり行っていたのがIBMの価値だったと思います。

関:下支えというと?

民岡:たとえば私が日本企業に対して啓蒙しているジョブ定義やスキル・コンピテンシー定義をどういう粒度で行うのか、HRテクノロジーの活用のためにはそれらの定義が必要不可欠であり、どのような部分で活用していくべきか。そういう考え方の部分もIBMではしっかりと研究されていました。

関:たしかにIBMは技術力もありますが、アカデミックな取組みも進んでいますよね。

民岡:はい。人事系専門の研究所がありまして、基礎研究もかなりやっていますし、論文も数多く発表しています。業界ごとのジョブ定義集なんかも製品として持っていました。

関:日本もジョブ型人事に変えないといけないと思っている人は増えていると思います。

民岡:ええ。ですが、増え方が遅いです。「うちは専門職ではなくジェネラリストの集まりだからジョブ定義はいらない」といわれることもあります。しかし、そうではないと私は思います。ジェネラリストのほうがむしろ広範囲な仕事を請け負っているわけですから、しっかりと仕事の定義を行っていかないといけないんですよ。

関:むしろ逆ですよね。範囲が広いジェネラリストこそジョブ定義が必要であるはずです。

民岡:そうなんです。定義できないのではなく、定義しようとしていないだけなんです。また、「ベンチャーだから全員の仕事に目が届く。だからジョブ定義はいらない」という声もあります。それも違います。最初だからこそジョブ定義をしっかりしておくことが大事なんです。人や仕事が増えたとき、そのジョブ定義をベースに積み上げていくわけですから。

関:アメリカのスタートアップのアプローチと同じですね。

民岡:何でもアメリカが正しいわけではありませんが、これについては見習うべきだと思いますね。仕事が見えているといっても、見ている人のバイアスがかかっています。企業の大小を問わず、ジョブ定義は必要なものだと思います。

日本企業の人事は4つのパターンに類型化できる

関:おっしゃる通りです。ただ、日本では従来からある職能型の人事に基づく考え方がとても根強く残っていますので、いきなりジョブ型人事と言われても変われない企業も多いのではないかと思います。変化するためにはどうすればいいのでしょう。

民岡:それを考えるとき、私は日本企業の人事担当者の方を4類型に分類して考えることにしています。まず、第1類型は「無知な人」です。カーナビには地図が必要であるのと同じように、HRテクノロジーを活用していくためにはジョブ定義が必要だということを知らない人々です。この第1類型の方々は知らないだけなので、必要性についてしっかり説明すると素直に学び、気づくことができます。

関:その必要性に気づくことができれば、変化していくことができそうですね。

民岡:次に第2類型です。この第2類型の方々は、昔から日本で人事業務に従事してきた方々で、現在の状況も分かっている頭が良い人たちです。ですが、過去に「コンピテンシー」が流行ったけれど、結局うまく根付かなかった経験を持っているので、「コンピテンシー」の要素の積み上げであるジョブ定義については消極的です。

関:知っているだけに踏み出せないのですね。

民岡:「日本には合わない」と未だに思っているんですよ。過去の体験にとらわれてしまうんです。ちょっと話はそれますが、そういう点でも御社の高橋さんはすごいんですよ。あれだけのキャリアと成功体験をお持ちなのに、今でも新しい考え方をどんどん取り入れて進んでおられますよね。そんな人はほとんどいないんですよ。

関:確かに新しい考えを取り入れることに対する抵抗感をあまり感じさせないですね。

小巻/店長:メインのお料理をお持ちしました。『カナダ産牛ハラミのステーキ』です。ベリーソースでどうぞ。

民岡:おお! 美味しそうな赤身ですね! 柔らかい! スパイスも利いていていくらでも食べられそうです。

関:本当ですね。ジューシーで旨味があります。これぞ肉! という感じです。

小巻/店長:こちらに合わせるのはオリジナルブレンドティーと、イタリア・ピエモンテを代表するバローロです。ネッビオーロという品種で作られており、“ワインの王”とも称されます。

関:なんだかすごそうですね。……お! これはたしかに合いますね! ベリーソースの果実味と絶妙にマリアージュします。

民岡:どれも美味しいお料理ばかりで最高です!

これからの人事に必要とされるのは、社員一人ひとりに寄り添うこと

関:楽しんでいただけてよかったです。お話を戻すと……次は第3類型ですね。

民岡:私はこの第3類型が一番やっかいだと考えています。

関:どんな方々でしょうか。

民岡:第2類型と基本的には同じバックグラウンドを持っているのですが、違いはHRテクノロジーの活用ためにはジョブ定義が必要だということまでをも深く理解しています。それでも、あえてジョブ定義が浸透しないように止めている方々がいるのです。

関:なぜそんなことを?

民岡:利害がからんでいたり、「逃げ切りたい」と思っていたりするからです。変革とは火中の栗を拾うこと。もう少しで引退だから、それまでは変化などせず今のままでいきたいわけです。ましてや、これまでの発言や考え方を撤回するわけにもいかない。しかも、第3類型の方々にはインフルエンサーも多いから影響力もあり非常にたちが悪いです。

関:どのように捉えればよいのでしょうか。

民岡:講演で私がよく言って笑いをとっているのが、「もう隠居してもらうしかない」ということです(笑)。すべてを理解しているだけに、今さら「学び直し」という路線はないわけですからね。でも、本当にそれくらいやっかいなんですよ。

関:変化のきっかけがほしいですね。

民岡:そこで期待したいのが、最後の第4類型です。これは、営業やマーケティングのように人事とはまったく異なる部門から人事を改革するために来た人たちのことです。たいてい30代後半~40代前半くらいの優秀な人材が抜擢されることが多いですね。

関:ただ、その人たちが来ても、第2類型や第3類型の方々が人事部門にもいたりするわけですよね。

民岡:そこがネックです。第4類型の方はたいてい課長クラスとして入ることが多く、その上人事部長は第2類型や第3類型であることが珍しくありません。その場合には、上司をうまく転がして組織を変革していく能力が問われます。

関:なかなか難しそうですね。

民岡:これまで日本では、労務中心の旧来型人事の考え方でもうまくいっていました。それがついに機能しなくなってきたのが今だと思っています。なぜかというと、世代が替わってきたからです。

関:世代ですか。

民岡:仮に10段階評価で30くらいつくような突出した優秀な人材でも、これまでの日本の人事ではルールで定められた10段階の枠に収められてきたわけです。それでも我慢していたのが我々くらいまでの世代です。ところが今の若い世代は、それを我慢しなくなってきました。これはとてもまっとうなことだと思います。

関:ジョブ定義以外で人事が変わるべき点はありますか。

民岡:限界はありますが、究極的には社員一人ひとりに寄り添うべきだと思います。たとえば満員電車で出勤したくないのなら、遅い時間の出社を認めてやればいい。ちなみにこれは実際に私が社会人2年目のころから勝手に実践してきたことです(笑)。20年以上の時を経て、今では当たり前の考えになりつつありますよね。それでパフォーマンスが上がるならその方が良いでしょう。それをやらずに、「昔からの決まり事だからこれからもそう」だというのは怠慢です。運動部で下級生には練習時間中終始水を飲ませないのと同じくらい時代錯誤なことだと思います。

関:従業員のことをどれだけ考えられるかということですね。

民岡:いわゆる従業員体験(Employee Experience)の考え方ですね。今の時代、従業員は企業からすればお客様なんです。採用活動では応募者に企業を売り込んで買ってもらう、つまり働きたいと思ってもらうことが今後は大事になります。

関:これからの人事にはマーケティング思考が必要だと言われますからね。

民岡:ええ。そういう考え方が主流になってきたというのは、とても良いことです。もう10年以上前から提唱してきた私としては、ようやく変化する時代の入り口に来たなという印象です。

関:本日はとても興味深いお話をありがとうございました!

民岡:こちらこそ、とても美味しいお料理と楽しい時間をありがとうございました!

今回のお店
あじる亭

赤坂見附駅徒歩2分。各地で修業を積んだシェフ達の本格欧風料理とソムリエ厳選の世界各国のワインが楽しめるワイン居酒屋です。取り扱うワインは400種以上。赤坂でもトップクラスの品揃えを誇ります。

編集後記
ライター・カメラマンの山田井です。

生粋の人事畑ではなく、多彩なキャリアをお持ちの民岡さんならではの視点はとても刺激的。昨今の人事が抱える課題に一石を投じるお話が伺えました。

また、あじる亭の季節の食材を取り入れたお料理とワインペアリングも絶品。どれも実際にためしていただきたい組み合わせですが、個人的には『カナダ産牛ハラミのステーキ』とバローロがベストマッチ! とろけるようなマリアージュはぜひ多くの方に体験していただきたいです。