コラム

ワインで対談

人事評価にレーティングが不要である理由とマネージャーに求められる資質とは – エム・アイ・アソシエイツ松丘啓司さん × セレブレイン高橋敦子 × セレブレイン関伸恭【前編】

人事評価にレーティングが不要である理由とマネージャーに求められる資質とは – エム・アイ・アソシエイツ松丘啓司さん × セレブレイン高橋敦子 × セレブレイン関伸恭【前編】

セレブレインのコンサルタントとゲストが、ワインと料理を楽しみながら人事について本音で語り合う対談企画。第4回ゲストは、エム・アイ・アソシエイツ株式会社 代表取締役社長・松丘 啓司さん。日本における人事の歴史から人事評価をめぐる問題に至るまで幅広くお話を伺いました。聞き手は、セレブレイン代表取締役副社長・高橋 敦子とパートナー HR Techコンサルティング事業担当・関 伸恭が務めます。(上記画像 右からエム・アイ・アソシエイツ松丘啓司さん、セレブレイン関伸恭、高橋敦子)

第4回ゲスト:松丘啓司さん略歴
1986年、東京大学法学部卒業後、アクセンチュアに入社。1992年にチェンジマネジメントグループの立ち上げに参画後、一貫して人事・組織変革のコンサルティングに従事。ヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナー、エグゼクティブコミッティメンバーを歴任。2005年、人材・組織変革サービスを提供するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し代表取締役に就任。著書に『人事評価はもういらない 成果主義人事の限界』『ストーリーで学ぶ 営業の極意: 1時間でわかる成功のポイント』など多数。

なぜ日本は人事評価で“レーティング”し始めたのか

高橋:こんばんは、松丘さん。本日はいろいろとお話を聞かせてください。

松丘:こんばんは。こちらのお店には以前、伺ったことがあります。

高橋:そうでしたね。今回のお店であるセレブールはオープンしてもう17年も経ちます。松丘さんはワインエキスパートの資格を持っていらっしゃるとお聞きしているので、ぜひ今夜はセレブールのワインとお料理を楽しんでいってください。

松丘:とても楽しみです。

関:ではお話の前にまずは乾杯しましょう!

松丘:シャンパーニュですか。……うん、おいしいですね。

ソムリエ:LALLIER(ラリエ)というシャンパーニュで、ピノ・ノワールが多く使われています。ピノ・ノワールが多いと濃い味になりがちですが、ファーストタッチがすごく繊細です。

松丘:本当ですね。それにしっかりとしたコクがある。

ソムリエ:まだ日本に入り始めてそれほどたっていないのですが、これから伸びてくるシャンパーニュだと思いますよ。

関:ではさっそくお話を聞かせてください。松丘さんは以前、『人事評価はもういらない 成果主義人事の限界』という著書を出版され、人事業界でも話題になりました。とても刺激的なタイトルですが、どんな思いで執筆されたのですか?

松丘:日本の企業に問題提起したかったのです。

関:といいますと……。

松丘:タイトルにもある「人事評価」ですが、アメリカでは「パフォーマンス・マネジメント」と呼ばれています。個人のパフォーマンスを高めることが、組織全体のパフォーマンスを高めることにつながる、そのために人事評価を組み込んでいこうという考え方ですね。ところが、実際のところはアメリカも日本も”評価”がパフォーマンスの向上につながっていないと感じている会社が多いのです。完全に評価をなくそうというわけではありませんが、目標管理や評価といった当たり前に思っているものが本当に必要なんでしょうかと問題提起をしたかったのです。

高橋:たしかに人事評価は給与を決めるためだけにやっている会社も多いですよね。人事評価を育成やパフォーマンス向上のために活用できている会社は残念ながらあまり多くはありません。

関:そもそも現在多くの企業に採用されている人事評価制度が日本で出てきたのは、成果主義が叫ばれ始めた90年代後半ごろだったと思います。それ以前の日本はどうだったのでしょう。

松丘:以前の日本はいわゆる年功序列・終身雇用制度だったので、皆が同じように出世していったのです。だから評価をして差をつける必要もありませんでした。もちろん、そうはいっても出世には差がついてくるのですが、レーティングをしなくてもだいたい誰が出世するかはある程度わかっていたわけです。

関:なぜ、そこからレーティングするという流れに変わってきたのですか?

松丘:戦後の日本は高度成長期が続いていました。それが、70年代後半くらいから低成長になり、これではまずいということでカンフル剤的な施策があり、バブル経済が生まれたんですね。その後、バブルが崩壊し、同時に90年代前半からグローバル・エコノミーが急拡大してきました。

高橋:国境を超えてお金や情報が動くようになってきたわけですね。日本企業もグローバルでビジネスを展開するようになった頃ですね。

松丘:ええ。ところが日本はそれまで年功序列・終身雇用制度だったので、人件費構造が高かったわけです。終身雇用制度における人件費とは、つまり固定費です。欧米企業はご存知の通り、景気が悪くなると平気で解雇されますよね。そうしたグローバルベースのビジネスでは、これまでのやり方では勝てないと言われ始めたのです。

関:つまり、日本経済が低迷して企業がコストダウンを迫られるなか、人件費を変動費化して限られた原資を成果に応じて配分しようという試みだったと。

松丘:それが直接的な要因だと思います。当時の日本企業にとって、国際競争で同じ土俵に立つという意味でそれなりの効果はあったでしょう。ただ、人件費を削減すると言ってしまうのは体裁が悪いので、成果に応じて報いるのが公平だというレトリックを用いたわけですね。

人事評価においてレーティングが不要である理由

高橋:では最初のお料理をどうぞ。

ソムリエ:先ほどのシャンパーニュに合わせて、アミューズの盛り合わせをご用意しました。右手から干し鱈をじゃがいもと一緒にペーストしたブランダード、ブリア・サヴァランというヨーグルトを加えたフレッシュチーズと季節の桃、そして黒いちじくと生ハムを合わせたものです。

松丘:おしゃれですね。……うん、シャンパーニュにもよく合います。

関:松丘さんが一番お好きなワインは?

松丘:難しい質問ですね。やはりフランスは好きです。ブルゴーニュとか。でも家で飲むにはちょっと高いので、オーガニックワインをもっぱら飲んでいます(笑)。

高橋:私も同じです。オーガニックワインの最近の進化はすごいですよね。

関:ワインやお酒は毎日飲まれるのですか?

松丘:ええ。ほぼ毎日飲みますね。昔は休日の昼間に飲んだりしたこともありましたが、今はもう疲れちゃうから飲まないですね(笑)。

関:さて、お話の続きですが、企業では目標を立てて半期に一度、または年に一度評価をするという仕組みを取り入れているところが多いと思います。松丘さんのお考えでは、そういった企業は今後どういう仕組みでやっていくことが求められるのでしょう。

松丘:そうはいっても評価がなくなるわけではないんですよ。昇進や昇格、ボーナスなどは決めないといけないわけですから。私が言いたいのは、評価がなくなるわけではなく、レーティングしないということなんです。

関:レーティングというと、S・A・B・C・Dや1・2・3・4などで評価をつけることですよね。それをしない評価といいますと……。

松丘:今はまだ短期の業績をもとにレーティングを行って、それを昇格と密にリンクさせている会社が多いのですが。たとえば年次評価で3年連続A評価以上なら昇格とかね。

松丘:このやり方は明確なルールがあるので、一見すると公平なように見えます。しかし、そうではないんです。昇格というのはどうやって決めるべきかというと、本来的には今よりも一つ上の役割を果たせる能力やリーダーシップがあるかどうかで判断されるべきなんです。短期評価でAを3回とったからというレーティングで決めるべきものではありません。

高橋:役割を果たせるかどうか、ですか。

松丘:もちろん、能力があるかどうかを判定する際に実績での検証は必要です。しかし、それはレーティングである必要はありません。そこは切り離す必要があるのです

関:給与についてはどうなりますか?

松丘:給与の仕組みは会社によって違いますが、基本給はだいたい等級と連動しています。対してボーナスは毎期の業績によって決まります。つまり、基本給を決めるのにレーティングは必要ないのです。

関:たしかにその通りですね。

松丘:そうするとレーティングはボーナスの配分を決めるためだけに使うことになります。多くの会社は相対評価で決めますよね。

関:1.2とか0.8とかに調整して決める方法ですよね。

松丘:ええ。多くの会社では目標の達成度で判断することが多いですよね。しかし、それは最初から達成しやすい目標しか立てなくなるという問題をはらんでいるのです。これは成果主義の問題として以前から言われていたことです。

関:なるほど……。

松丘:そもそも何が評価されるべき成果なのか、その基準自体も変化しています。売上目標を達成したから評価されるべきなのか、それとも売上目標は達成できなかったけれど、すばらしいチャレンジをしてイノベーションにつながったなら、それは評価するべきではないのか。これを単純に2:6:2とかで配分すると、柔軟性を欠いてしまうのです。また、社員としては他の人と同じ程度の成果を出していればとりあえず真ん中の6には入れるので、他の人を見ながらほどほどにやっていればいいという意識になってしまいます。

高橋:日本人らしい思考ですよね。

関:海外ではそういった問題はないのですか?

松丘:欧米だと人材流動性が高いですから、たとえば「あなたはCです」のようにレーティングすると辞めてしまうんです。それで競合他社に移ってしまったりする。かといって「なぜCなのか」ということを説明して納得してもらうのも大変です。

関:そこに労力を使いたくないですよね。

松丘:実は脳科学の研究で、レーティングをするとマインドセットが「自分はダメだ」という方に向いてしまうという結果が出ているんです。人が成長するためには前向きなマインドセットになる必要があるので、やはりレーティングは問題があるのです。

前編では、日本の人事評価の歴史を経済的な視点から振り返り、さらに人事評価におけるレーティングの問題について詳しく語っていただきました。

次回、後編では現場の課題をどう解決していけばいいのかというお話に加えて、トレンドでもある働き方改革についても見解をお聞きします。

もちろん、お料理とワインもすばらしいものが登場! メインディッシュと、それに合わせる最高のワインは何が選ばれるのか……。こちらもお見逃しなく!

今回のお店
セレブール
2001年オープン。赤坂の隠れ家的ワインレストラン&バー。シェフを始め、スタッフは全員がソムリエの資格を持っており、フランスを中心とした銘醸ワインが約400種類そろっています。フレンチをベースにした創作料理とのマリアージュをお楽しみください。

<本日のワインと料理>

本日お楽しみいただいたワインと料理、そのマリアージュについてご紹介します。

白桃とフレッシュチーズのサラダ
干し鱈をじゃがいもと一緒にペーストしたブランダードは、フランス・ラングドック地方の郷土料理。ブリア・サヴァランというヨーグルトを加えたフレッシュチーズと季節の桃、そして黒いちじくと生ハムを合わせたアミューズの盛り合わせ。見た目、香り、食感のすべてで楽しめる一皿です。

シャンパーニュ・ラリエ、R.012 ブリュット
秀逸なピノ・ノワールを生み出すアイ村のシャンパーニュ。ピノ・ノワールの比率が高めでしっかりとした骨格を持ちながらも、口当たりはなめらかで繊細。柑橘系の香りと白い花のアロマが感じられるバランスの良いワインです。

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