AIの導入で人事の仕事はどう変わる? – AI研究家・大西 可奈子さん × セレブレイン 関 将宏【後編】

セレブレインのコンサルタントとゲストが、ワインと料理を楽しみながら人事について本音で語り合う対談企画。第9回ゲストは、NTTドコモで対話AIの研究開発に携わり、3月には著書「いちばんやさしいAI〈人工知能〉超入門」も出版された大西可奈子さん。AIが人事業界に及ぼす革新と現状についてお話いただきました。聞き手はセレブレイン 人事戦略コンサルティングユニット マネジャー・関 将宏が務めます。

第9回ゲスト:大西 可奈子さん略歴
お茶の水女子大学修了後、株式会社NTTドコモ入社。国立研究開発法人 情報通信研究機構への出向を経て、現在はNTTドコモ R&Dイノベーション本部 サービスイノベーション部で自然言語処理と対話AIの研究開発に従事。著書に『いちばんやさしいAI〈人工知能〉超入門』(マイナビ出版)など。講演・執筆活動などマルチに活躍している。

雑談という正解のない研究に挑む

関(将):大西さん、あじる亭 Annessoのワインとお料理はいかがですか?

大西:すばらしいです。特にさっき出していただいたギリシャのワインは、やっと念願叶ってという感じだったので感動しました(笑)。ギリシャといえばタコですし、お料理との組み合わせも絶妙ですよね。

関(将):本当においしいですよね。次のお料理も気になりますね。

野村/店長:続いてはエビとゴーヤのチーズチリチャンプルです。チリソースのスパイス感とチーズのまろやかさが合わさって、コクのあるピリ辛なお料理です。合わせるワインはカリフォルニアのロゼをお持ちしました。スパイス感に合わせて赤ワインでもいいのですが、今日は暑いので赤の前にロゼからということで(笑)。

大西:スパイスの利いた料理、大好きです! ここまでのワインとお料理で猛暑からやっと解放されたので、ちょうど温かいお料理がほしいと思っていたところでした。すごくおいしいです!

関(将):ワインも面白いエチケットですよね。これはふくろう?

野村/店長:そうなんです。ストルプマン・パラ・マリアというワインで、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、カベルネ・フランなどいくつかの品種がブレンドされています。カベルネ・フランに少しベジブルな香りがあるので、ゴーヤとぴったりなんですよ。

大西:たしかに! それでこんなに合うんですね。

関(将):ではチーズチリチャンプルとロゼをいただきつつ、お話の続きに。人事以外でもいいので、大西さんが研究されている対話AIについて、具体的な活用の可能性をお聞きしたいです。

大西:たとえばコールセンターですね。AIが応対できるようになれば、かなりのヒューマンコストの削減になります。といっても今はまだ、すべてをAIが行えるわけではありません。まずAIが電話に出て、音声認識で相手の質問や要望を聞き取ります。過去のデータから問い合わせの内容を推測して、対応できる部署に振ることはできるでしょう。さらに回答も予測して、5つくらいのパターンを提示したりもできると思います。担当者はかかってきた内容と、AIが提示された予測回答を見て応対できるのでかなり楽になるのではないでしょうか。

関(将):なるほど、タスク指向型対話システムと呼ばれる、特定のタスクを目的とした対話ですよね。ある程度回答がしぼれると、かなり役立ちそうですね。

大西:ただ、コールセンターのスタッフ側も、いきなりAIから質問が飛んできて5つの回答パターンを提示されても最初は戸惑うと思うんですよね。AIみたいに新しいやり方を現場へ浸透させるのってけっこう大変なんですよ。

関(将):よくわかります。

大西:せっかくAIをつくっても本格導入できないのでは意味がありませんよね。だからこそ現場とのハブになれる人が必要なわけですが。

関(将):その部分をクリアできるようになれば、タスク型の対話についてはAIが活きる場面も増えそうですよね。一方で、大西さんがメインで研究されているのは非タスク型の対話ですよね。

大西:そうですね。有り体に言うと「雑談」ですね。

関(将):その部分の技術は進んでいるのでしょうか?

大西:正直に言って微妙です。進んではいますが、おそらく想像されているよりも歩みは遅いです。というのも対話のなかでも雑談って、あまり研究者が好まないんですよね。研究向きなのは「これが正解!」と答えがはっきり出るものなんです。雑談って明快な答えがあるわけではなく、どうしても主観評価になってしまうので、取り組んでいる研究者は多くはないですね。

関(将):なるほど、たしかに直接的にビジネスとは結びつけづらいかもしれませんね。

大西:雑談ってお金にならないですからね。タスク型の対話AIは「暑い」と話しかければ「エアコンの利いた商業施設を探します」と課題を解決してくれますが、雑談AIは「暑い」と話しかけても「夏だもんね」と返してくれるだけ(笑)。つまり、雑談AIをビジネスにしようとすると“話をすること”そのものが価値を生まないといけません。これはかなり難しい。

関(将):でもアトムやドラえもんみたいなロボットが友だちになってくれたら嬉しいですけどね。

大西:そうですよね!

関(将):ただ、雑談は正解がないから機械学習やディープラーニングの手法でどこまでできるのかは難しそうですよね。

大西:ええ。国立研究開発法人 情報通信研究機構にいた頃、「雑談とは共通の認識を省略した対話である」という仮説を立てたことがあるんです。例えば、「Nintendo Switchほしいよね」「マリオテニスもできるもんね」という対話があったとき、そのベースには「Nintendo Switchでマリオテニスが遊べる」という共通認識があるわけです。だから、「Nintendo Switchほしいよね」と話しかけられたAIはネットをクロールしてNintendo Switchに関する情報を集め、「マリオテニスが遊べる」という情報を探してきて、「マリオテニスもできるもんね」と返せば人間らしい雑談になるのではないか――という仮説です。

関(将):面白いですね! たしかに人間同士でも初対面で会話するときはお互いの共通項を探りますよね。

大西:そういうことですね。でも、裏を返せば雑談AIってまだそういうレベルなんですよ。本当の意味で雑談できるレベルにはありません。これは世界の有名な外資系IT企業でも一緒です。最近は応答文をリアルにつくりこむのが流行っていますが、あれは単に応答がうまいだけで、雑談できているわけではないんです。

関(将):Siriとかチャットボットとかがちょっと気の利いた返しをするような?

大西:そうです。あれはあくまで会話のシナリオを作り込んでいるだけで、そこに未来はないと私は思っています。

関(将):会話のシナリオの数を膨大にしてもだめなのですか?

大西:実際にそれを検証した事例があって、数万件のシナリオと数十万件のシナリオで比較したところ、ある段階から対話のクオリティが頭打ちになったそうです。ある程度まではいけるのですが、限界があるのです。シナリオではAIは人になれません。

関(将):難しいのですね……。大西さんの今後の研究にも期待しています。

AIの導入で人事の仕事はどう変わる?

野村/店長:メインの牛ハラミのステーキをお持ちしました! 合わせるワインはカリフォルニアの赤ワイン。このエチケット、見覚えがありますか?

関(将):あっ! ゲーム・オブ・スローンズじゃないですか!

野村/店長:そうなんです、こちら世界中で大ヒットしているドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の公式ワインです。ドラマの中でもワインが重要な役割を果たしています。

大西:へ~! すごい! それが実際に発売されたんですね。

野村/店長:ワイン自体はカリフォルニアにパソ・ロブレスという地域のもの凝縮感があり、しっかりとした味わいです。品種が6種類ほども入っているそうなのですが、何が入っているかは企業秘密とのことです。

大西:ミステリアスですね。

関(将):やわらかくてボリュームたっぷりのハラミと濃い赤ワインの相性は言うまでもなく最高ですね!

大西:お肉と濃い赤ワインが大好きなので、いくらでも食べられそうです(笑)。

関(将):さて、お話を戻して……もう一つ、人事的な視点でいうと、AIが普及することで人の仕事が置き換わってしまうのではないかという懸念があります。これについてはどうお考えでしょう。

大西:置き換わる仕事とそうでない仕事はあるでしょうね。たとえば勤怠データなどははっきりとした数字なので、それをもとにした分析はAIが得意とするところでしょう。

関(将):勤怠データから退職予測をするとか、適性検査からハイパフォーマーを見つけるとかですね。

大西:ええ。一方で社員の様子を見てコンディションを予測したりするのは難しいでしょうね。結局、AIといってもデータに基づいて分析・予測しているだけなので、データがふわふわしたものだとあまり活用する意味がないんです。

関(将):たしかに、適性検査と面接のデータをもとに、その人を採用するかどうかを判断するAIを導入しようとした企業の話を聞いたことがあります。AIならより少ないコストで正しく判断できるのでは……と期待したわけですね。ただ採用は重要事項なので、「なぜ採用/不採用になったのか」を採用担当が検証するように言われた。そうすると結局担当者が検査や面接の結果を一つ一つ確かめることになり、AIを導入する意味がなかったという(笑)。

大西:なるほど(笑)。そもそも、人でないと許されない領域というのは絶対にあって、そういったものはたとえAIの得意分野であっても、現時点では置き換えるべきではないと思います。たとえば医療とかもそうですね。発見はAIに任せた方がいいと思うけど、それを患者さんに伝えるときに「AIがそう言ってるんで」というのはまだ受け入れられないでしょう。

関(将):人間のお医者さんがきちんと診てくれていることに安心感を覚える人は多いでしょうね。

大西:クリエイティブ方面ももう少し時間がかかるかもしれません。すでに小説や絵画をつくるAIは出現していますが……。

関(将):村上春樹の小説を大量に読み込ませると彼の文体や作風を模倣したそれっぽい物語が出てきそうですけど、それはちょっと違うというか。

大西:それっぽければいいわけじゃないんですよね。背景となる物語も含めて消費しているので。

関(将):人間の面白いところですよね。

大西:最近、ワイン×AIについてすごく考えるんですよ。仮にソムリエがAIになったらどうなるだろうって。エチケットは画像認識で判別できるだろうし、味も酸味とか渋味とか数値化できるんじゃないかと。でもソムリエは目の前のお客さんを見て、料理や今日の気温、お客さんの体調や雰囲気などを総合的に判断してワインを選んでくれますよね。それは今のAIには絶対にできないんです。

関(将):面白いですね。ワイン自体はデータベース化できそうですが、そこに人という要素が入ってくると、途端にAIの手には負えなくなってしまうわけですね。

大西:ちょうど先日、「日本の夏」をテーマにワインを持ち寄ってワイン会を開いたのですが、「日本の夏」をどう解釈するか、めちゃくちゃ悩んだんですよ。夏といえば潮の香りかなとか。でも潮の香りって定義できないので、それを選ぶことはやっぱり人間にしかできないんです。単純に「このワインに似たワインを選んで」ということなら、データさえあればAIは正確に選び出してくれると思いますけどね。

関(将):レコメンドはAIの得意分野ですもんね。とはいえ、今後はあらゆる分野にAIが浸透していくことは間違いありませんよね。AIが当たり前の世代もどんどん出てくるでしょう。

大西:世代の影響はありますね。たとえば音声認識もそうじゃないですか。私たちの世代はまだ、外でスマホに向かって話しかけることに気恥ずかしさがありますが、でもある世代からはきっと普通になっていくはずです。

関(将):慣れもありますよね。

大西:ええ。最近、スマートフォンを耳にあてずに、Bluetoothのイヤホンだけで通話している人も見かけますが、あれもちょっと前まで見かけるたびにギョッとしていました(笑)。Bluetoothイヤホンが普及した今はもう、それほど驚くこともないですよね。

関(将):人事とAIもそうなんだと思います。世代交代が進むにつれて少しずつAIの風は吹いてきている。勘と経験だけじゃなく、データをもとに話ができるようになっていくと思いますね。

大西:AIで世の中がどうなっていくのか、私も楽しみです。

関(将):本日は興味深いお話をありがとうございました!

大西:こちらこそ、今日は本当にいろいろな方向性からワインが楽しめて、すごく良い経験になりました!

今回のお店

あじる亭 Annesso

赤坂見附駅から徒歩5分。赤坂あじる亭の姉妹店で、Annesso(アネッソ)とはイタリア語で「別館」という意味。2018年にリニューアルオープンしました。フレンチをベースに、ワインに合う欧風料理と世界のワインをご提供します。スタッフは全員がソムリエ有資格者。シェフのこだわり料理をバルスタイルでどうぞ!
ライター・カメラマンの山田井です。

世の中は空前のAIブーム。今はまだ各業界、手探りなところもありますが、キャズムを超える瞬間もそう遠くはありません。今後、人事の世界もAIの導入により大きく変わっていくものと思われます。

来るべきAI社会に向けて、大きなヒントが得られた対談だったのではないでしょうか。

そして、リニューアルオープンしたあじる亭 Annessoのお料理とワインですが、相変わらずすばらしいものでした!

フランスから始まり、モンテネグロ、ギリシャ、アメリカという世界旅行を楽しむかのようなワインのチョイスと、夏の火照った体を冷やし、食欲がぐんぐんわいてくるようなお料理の流れ! ペアリングも含め、夏の夜にふさわしい完璧なディナーでした。

あじる亭 Annessoを訪問された際は、ぜひ今回の記事もご参考して楽しんでいただければと思います。